近代製糸業の勃興によって産業化を推進した諏訪・岡谷地域は、戦後になって産業転換を図り、右肩上がりの日本経済と歩調を合わせるように成長を遂げた。
そしてかつては”東洋のスイス”と形容されたほどの精密機器産業のメッカとして、その名を広く知られるようになった。しかし実状は、円高とバブル経済の崩壊によって厳しい状況にある。
現状打開に向けて官と民が積極連携
ネットを通じて受注できる土壌を創り出す
「諏訪バーチャル工業団地(S-VIP)」は、画期的な取り組みで全国的に知られる組織である。バーチャルという言葉が示すようにコンピュータ・ネットワーク上に設けられた仮想工業団地だ。’95年、製造業のためのインターネットの利用を考える「インダストリーウェブ研究会」が発足。その中から生まれてきたのがS-VIPである。
「参加メンバーの情報をインターネットで外部に向かってアピールするとともに、メーリングリスト(電子メールを利用して参加者が情報を共有化できる)で情報を交換する仕組みです」
(中略)
以前、複数の大手企業の資材購入部門との間で、ネット上で受注活動を行う動きがあったという。
ところが意に反してなかなか実需に結びつかなかった。最大の理由は地域中小企業間で互いの技術や持ち味を高めたり、それを相手や仲間に知ってもらうことを積極的にしなかったためである。この点を解消しない限り、地域としてのアピールは不可能であり、当然のことながらビジネスにも成長しない。そこで時間はかかるものの、情報の共有化ができる土壌をつくったのである。その意味ではここに至って準備は整ったわけで、周囲からも今後、実需に結びつく活動として大きく期待されている。
諏訪・岡谷地域の技術向上を強力に支援
一方、受注面だけでなく技術開発の面でも官民の間で積極的な連携が見られる。その中で大きな役割を果たしているのが、昭和32年、岡谷市に建設された『長野県精密工業試験場』である。
この試験場は、諏訪・岡谷地域の精密・光学工業企業の要望によって、いわば誘致という形で設立されたもの。加工、電子、半導体など6部門から構成されており、技術相談、依頼試験、研究開発のほか、各種講演会、さらには技術者研修など広範囲にわたって、企業をサポートする体制にある。
(中略)
こうしてみると諏訪・岡谷地域では地場というカテゴリーにとどまらない活動が随所に見られるようだ。
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