元気の出る話、元気を出す話・バックナンバー

1998.2.20.

■中国内陸のサイエンスパーク　その２～内陸のサイエンスパーク「科学城」■

　科学城は1983年に策定された「高科技研究発展計画綱要」「火炬計画」などの
科学技術政策の中に位置付けられた。国際的な先端技術の研究開発競争に互していく
拠点整備が必要であるとされている。その整備に際してアメリカのシリコンバレーをはじめ
日本・筑波研究学園都市、台湾・新竹科学工業園区、韓国・大徳研究団地などが研究された。

  そして、綿陽市郊外の約10K㎡の丘陵地帯に６つの国家級専門研究所・設計院、
１２の大企業の基礎研究所を中心とする基礎・応用研究開発機能の集積と研究者の
教育機関、２万人近くの研究者とその家族向け住宅、商業、教育、文化などの
都市機能を備えたサイエンスパークが整備された。

  科学城のルーツは「三線建設」と呼ばれる国防戦略にたどることができる。
三線建設は、中ソ対立にともなう国防新技術の提供を含む中ソ協定の破棄（1959年）
によりソ連との全面対決の緊張が高まったこと、トンキン湾事件（1964年）以降、
アメリカのベトナム戦争への直接介入により戦争の危機が高まったことに由来する。
予想される米ソとの戦争で沿海地域と東北が破壊されたとしても、雲南、貴州、
四川、湖北、陜西などの内陸地域に持久戦を継続できる軍事工業体系を構築する
という計画である。

　近代兵器開発を担う研究開発機関や兵器工場の内陸への移転計画の中で、
原子爆弾の開発を進める「第二号核基地」が四川省（おそらく綿陽市）に
立地することとなり、その後の四川省を中心とする工業配置の立地選択の基準となっていった。
  最初に綿陽市に移転してきた研究機関は、中国工程物理研究院（1964年移転立地）
である。実験用熱中性子反応炉、大出力レーザー装置などを装備し、核物理、
放射線化学、レーザー物理ほか１２分野の専門研究所を配置し高級研究員は
約5,000名を数える。
  中国ジェットタービン研究所（1965年）は、約1,000名の研究員を擁し
航空機ジェットエンジンの研究開発、試験、生産を行っている。
  西南応用磁学研究所（1967年）は、中国唯一の磁性材料研究所である。
約1,300名の研究員で希土永久磁性材料、マイクロウエーブ鉄気体材料などの研究を行っている。
  中国空気動力研究発展中心（1968年）には、５分野の研究所に約5,000名の
研究員がアジア最大の風洞実験設備を用いて航空機、ミサイルなどの飛行実験と
理論計算を行っている。
  西南自動化研究所（1977年）と全国最大の計算センターの西南計算中心では、
大型コンピュータを用いた情報処理サービスやソフトウエア開発を行っている。
  このほか、中国電子部第11設計院綿陽分院、農業科学研究所、林業科学研究所、
農業機械研究所、化工材料研究所などが立地しており、中国を代表する
基礎・応用研究開発の拠点を形成している。

  先端科学技術の成果を生産に活用する受け皿として、国家科学委員会が批准した
国家級高新技術産業開発区は全国に52ヶ所ある。1985年に最初の高新技術産業開発区が
シンセンに誕生し、1986年には北京海淀区・中関村に北京新技術実験区が配置され
“北京のシリコンバレー”として注目された。その後、上海五角場、天津紅旗路、
南京珠江浦、武漢東湖、成都、重慶など全国に配置された。
各地の高新技術産業開発区は、それぞれ特徴を持つが「理工系大学」「ハイテク企業」
「電子街」をセットにしている場合が多い。

　綿陽市では、1993年に市内の6.1k㎡が「綿陽高新技術産業開発区」の批准を
受けている。綿陽高新技術産業開発区の場合は「科学城」と「三線企業」の「軍転民」
が大きな特徴といえる。
今後の三線工業都市のモデルとして期待されていると思われる。

  軍事工業関連の科学技術は、各時代の超先端技術分野を扱っている。
例えば、核分裂・核融合技術、（ミサイルなどの）航空・宇宙技術、新素材技術、
レーザー技術、実験・計測などに必要な高速情報処理技術などなど。
　科学城には超先端技術の研究開発を先導する人材や機関が集積している。
彼らの技術蓄積がこれまで軍事分野に向けられてきたことは不幸なことではあるが、
ひとたび平和利用に集中されるならば、中国の地域経済発展に大きな波及効果を
及ぼすことになるだろう。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（続く）

1998.2.9.

■中国内陸のサイエンスパーク　その１～内陸地域は遅れているか？■

　沿海地域の都市の華やかな経済成長が注目される一方、沿海地域と内陸地域の
経済格差が語られ、鉄道駅や工場現場などでの出稼ぎ労働者の映像を見せられると、
広大な農村地域を抱えた内陸地域の停滞したイメージばかりが膨らんでしまう。
　しかし、「ものづくり」という視点から内陸地域を注意深く観察すれば、
高い実力と成長の可能性を備えた地域が、あちこちに存在していることに気がつく。
成長している内陸地域と停滞している内陸地域があるという理解が正確であろう。

　そうした視点で内陸地域を見渡せば、今後、活発な「ものづくり」活動が沸き起こり、
新たな取り組みを先導するのは四川省のいくつかの都市地域であるように思う。
　
　昨年３月に四番目の中央直轄市となった重慶市は、遼寧省瀋陽市、湖北省武漢市とともに
中国の三大重工業都市に数えられる。
オートバイ、自動車をはじめとする機械金属工業の集積が注目される。
また、今世紀最後の大プロジェクトといわれる三峡ダム建設の後方拠点として
多くの“経済・社会的実験”が取り組まれよう。

  歴史的に最も“風格のある都市”のひとつである成都市は、西南地区の鉄道、
高速道路、航空の結節点であり、商業・流通・貿易・金融センターとしての位置を確立している。
今後、さらに内陸ビジネスの拠点として注目されることだろう。

　これまで日本ではほとんど触れられることのなかった綿陽市、徳陽市は、
1964年に始まる「三線建設」に連なる重要拠点都市である。
徳陽市は成都市から北へ約80Km、中国の「三大動力設備基地」の一つであり、
第二重型機械廠（製鉄機械、鉱山機械など）、東方電機廠（水力・火力・原子力発電設備）、
東方気輪機廠（タービン類）などが立地している。
三峡ダムの発電設備を受注したシーメンス・グループの技術は東方電機集団公司に
導入されることになる。

  そして、綿陽市である。四川省政府は、綿陽市を2010年までに市区の都市人口が
100万人以上（現在36万人）の四川第三の大都市にする計画を1992年に正式提出している。
綿陽市には、長虹機器廠（長虹電子集団公司）、華豊無線電器材廠、●江機器廠、
●江有線電廠、五洲電源廠、朝陽機器廠、西南金属制品廠、普明機械廠など
電子工業を中心とした軍事系の機械金属工業の集積が著しい。

さらに、先端技術の研究開発を先導するサイエンスパーク「科学城」が立地している点
に注目する必要がある。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（続く）

1997.12.10.

■中国・西南地区の工業開発の動向（その５）～綿陽市の工業開発～■

５．三線工業都市 綿陽市の工業開発

  綿陽市は徳陽市とともに四川省（重慶直轄市を除く）で成都市に次ぐ人口規模、
工業単位数、工業総生産額を有し２、３位を競っている。
　綿陽市の人口507万人、工業総生産額253億元で成都市から北へ約160kmに位置する
「三線」上の地方工業都市である。

  綿陽市の工業を特徴づけるものは三線企業の「軍転民」と「四川省科学城」である。
三線企業の「軍転民」については「長虹電子集団公司」の存在を語らなくてはならない。
同公司は中国最大のカラーテレビ生産企業であり、西南地区2.5億人の市場占有率は高い。

　現在の従業員は約16,000人、年内に「綿陽高新技術産業開発区」内の約50haを使い、
29インチカラーテレビやエアコンと生産する「長虹家電城」を立ち上げ、
総従業員は20,000人を超えることとなる。
　高新区を含む市内５ヶ所に約100haの敷地を確保し工場、物流センター、訓練センターを配置している。
1996年の総生産額は約96億元に達し、市の工業総生産額の約38％を占める綿陽市最大の企業である。

　カラーテレビの生産技術は松下電器産業と、エアコンについてはサンヨーと
それぞれ技術提携をしている。技術提携の目的は「軍転民」を円滑に進めるためである。
三線企業としての同公司は軍用レーダーの開発・生産を担っており、
この技術基盤を活用して家電分野へ展開したものである。

  三線建設における綿陽市の役割は、郵電部傘下の有力企業を集めて西南地区の
電子技術の拠点を創ることであった。市内には長虹電子集団公司(旧304廠)のほかに、
衛星放送受信機器の全国シェア70％を占める「九洲電器集団公司(旧203廠)」や、
電線ケーブルを生産する「江陵電纜廠(旧608廠)」、盤関係の「沿江企業集団(旧204廠)」
などが立地している。

　三線建設を基礎とする産業、技術の内陸地区への配置は、今日になって
「軍転民」が求められる中でようやく効果が現れ始めたということだろう。

　ところで、綿陽市の今後の工業の展開を見るのに「四川省科学城」の存在は重要である。
　科学城は1983年から中国科学院国防科学工業委員会の第九研究院の研究所、
大学が移転してきており、西南地区のサイエンスパークを形成しようというものである。
　現在までに中国物理研究学院、応用電子研究所、化工材料研究所、中国計算機中心
など12機関が郊外の丘陵地帯に集約され、１万人以上の研究者とその家族が住む
住宅区が整備されている。
  国防関係ということで対外的には閉鎖性が強いが、今後の改革開放や軍転民の
進展によって綿陽市工業の重要な存在となるであろう。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（続く）

1997.12.2.

■中国・西南地区の工業開発の動向（その４）～成都市の工業開発～■

４．成都市の工業開発

(1) 内陸ビジネスの拠点　成都

　沿海地域の“新興都市”に較べ、四川省の省都、成都市は歴史的に最も
“風格のある都市”のひとつである。重慶市が重工業都市としての特徴を
強調できるとすれば、成都市は商業・金融都市、観光文化都市、工業都市としての
複数の顔を持っている。

　成都市は西南地区の商業・流通・貿易・金融センターとしての位置を確立している。
成都を起点として北に綿陽を経由し陜西省宝鶏へ、南に攀枝花を経由して雲南省昆明へ、
東に重慶を経由して貴州省貴陽へ３本の幹線鉄道が延びている。
三線の重要都市を結び、それぞれ北京、ハノイ、上海に到達できる。
　また、成都市はチベット自治区ラサを結ぶ航空路線の拠点であり毎日１便が就航(11)している。
　
　こうした基盤を背景として成都市には商業・流通・貿易業の集積が著しい。
さらに金融・証券市場も整っている。証券業務の“実験区”である四川省には
８つの証券部門があり、成都市には光大証券有限公司成都証券部ほか１社が営業している。
　日系企業では伊藤忠商事、豊田通商、共栄商事、東京三菱銀行、甲府商工会議所
などが事務所を配置している。

(2) 電子産業への期待

　工業分野では内陸地域の鉱物資源を背景とした一定の工業集積を形成している。
特に西南地区で最大の電子工業の集積を有していることが特徴である。
ハイテク産業育成のターゲットはマイクロエレクトロニクス、マルチメディア、
医薬品を上げている。
　こうしたハイテク産業は、1991年に国務院の批准を受けた「成都高新技術産業開発区」
(計画面積40平方km、全国十大高新区のひとつ)を受け皿としている。
シーメンス(光ファイバー)、モトローラ（半導体後工程、交渉中）など210社が
認可済みで約半数が操業を開始している。
日系企業は８社が進出認可を受け、住友電工(光ファイバー)が交渉中である。　

  高新技術産業開発区は、北京中関村で典型的に見られるように「ハイテク企業」
「理工系大学」「電子街」をセットとしている場合が多い。
成都ではハイテク企業団地の整備を重視している様子である。
　高新区は中心市街地の南西に接し南への展開を図っている。高新区内には
５階建ての工場ビルで「科技企業孵化器（インキュベータ）」が用意され、
CATV電送装置、監視カメラ、マイクロウエーブ応用装置などを開発・生産する
地元のベンチャー企業が入居している。

　成都市の場合、高新区内には大学、電子街は取り込んでいない。
中心市街地の北西に接して電子科学技術大学があり、南西に接する四川連合大学と
高新区を結ぶ「高新技術電能一条街」がパソコン、電子部品、ソフトウエアなどの
事業所が集まる電子街となっている。
　電子街の“厚み”は、まだ表通りに面した部分だけであり、電子産業を軸にした
高新区の成長はこれからが本番という情況である。

　「成都経済技術開発区」は、1990年に県レベルの開発区としてスタートし
'93年に国家レベルに昇格した。成都－重慶高速道路の成都市街への入り口に近く
に位置し、中心市街地まで約13km、計画面積26平方kmの開発区である。
　三資企業は60社が認可済みで、日系企業は二輪車部品、自動車部品など11社が
進出（交渉）している。重慶市の二輪車、自動車産業のサポートインダストリーを
呼び込みたいとしているのだが、外資導入の経験を重ねた沿海地域の開発区の
“営業”と較べ、当開発区では成都市の中心性や可能性を強調することが先行し
導入戦略が十分に練られている様子ではない。やはり工業開発の改革開放は
これからという情況である。　

  甲府商工会議所の調べによれば1997年３月現在、成都市には45社の日系製造業が
進出している。今後、中国内陸地域への注目が高まるにしたがって西南地区の
ビジネス、交通、都市機能の拠点である成都市への外資の進出が集中することだろう。


(11）『中国航空 班期時刻表 1996年10月～1997年３月』

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（続く）

1997.11.21.

■中国・西南地区の工業開発の動向（その３）～重慶直轄市の工業開発～■

３．重慶直轄市の工業開発

(1) 重工業都市  重慶

  重慶市は遼寧省瀋陽市、湖北省武漢市とともに中国の三大重工業都市の一つ
といわれている。1985年の全国都市別の工業総生産額順位（６）では、
上位３位が上海市、北京市、天津市の三直轄市であり武漢市５位、瀋陽市６位、
重慶市は９位の位置にあった。

　1995年には上位３位は上海市(4,547億元)、蘇州市(2,923億元)、天津市(1,880億元)となり、
瀋陽市16位(1,006億元)、重慶市22位(838億元)、武漢市23位(777億元)と
沿海地域の諸都市の工業成長に較べ、内陸の重工業都市は後退している。　
  重慶市工業は1953年から始まる第一次五ヶ年計画以降の数次の三線建設（７）
により、一連の機械・軍需工業や化学工業の配置、道路・鉄道建設、鉱山開発
などを基盤としている。現在もその骨格が色濃く残る工業構造を示している。

　工業総生産額構成により見ると、国有企業が約62％、重工業が約71％を
占めている。主要業種上位10業種のうち第１位が武器弾薬製造業で約22％を占め、
第二位はオートバイ、自動車アッセンブリーを中心とする交通運輸設備製造業で
約15％となっている。上位10業種のうち８業種(68％)が重工業で占めている。

  表－２　重慶市の工業構造                       　　  単位) 個、千万元

工業区分	企業単位数	構成比	工業総生産額	構成比
全市合計	7,612	100.0	7,620	100.0

[経済類型区分]
国有企業	843	11.1	4,750	62.3
集体その他	6,769	88.9	2,870	37.7

[重軽区分]
重　工　業	4,010	52.7	5,419	71.1
軽　工　業	3,602	47.3	2,201	28.9

[上位10業種区分] (10業種小計)	(3,533)	(46.4)	(5,684)	(74.6)
武器弾薬製造業	27	0.4	1,662	21.8
交通運輸設備製造業	855	11.2	1,124	14.8
黒色金属冶金・圧延加工業	117	1.5	667	8.8
化学原料・化学製品製造業	410	5.4	553	7.3
普通機械製造業	588	7.7	392	5.1
紡　織　業	323	4.2	323	4.2
有色金属冶金・圧延加工	62	0.8	291	3.8
非金属鉱物製品業	819	10.8	287	3.8
電気機械・機材製造業	262	3.4	199	2.6
医薬製造業	139	1.8	186	2.4

  注1 : 1995年当年価格、原規定                                                
            
  資料: 『重慶統計年鑑』1996年、独立採算全部工業指標による                    
            
                                                                              
            

(2) 第三ステージに入った工業開発

  重慶市の工業開発は1950年代から1970年代の三線建設による重工業開発が
第一ステージであった。現在、その主役であった国有企業のリストラクチャリングが
大きな課題となっている。（８） 

　改革・開放以後の1980年代は軍需工業の「軍転民」が工業開発の第二のステージを
作ったといえる。それは本田技研、ヤマハ、スズキの重慶進出が重要な役割を果たした。

　本田技研は、1982年に嘉陵機器廠と二輪車生産の技術援助契約を締結し、
'93年に中国嘉陵工業（集団）有限公司と合弁で「嘉陵本田発動機有限公司」を設立した。
現在、125cc二輪車２車種、年産能力20万台のエンジンとアッセンブリーラインを装備している。
  ヤマハは、1983年に北方工業公司傘下の重慶建設機床廠と二輪車生産の
技術援助契約を締結し、'92年に重慶建設（集団）公司と合弁で
「重慶建設雅馬哈摩托車」を設立した。
　スズキも1984年に北方工業集団公司傘下の長安機器廠とトラックの
技術援助生産を開始し、'93年には日商岩井と長安汽車との合弁で
小型乗用車“アルト”を生産する「長安鈴木汽車」を設立した。

  1990年代以降、重慶の工業開発は対外開放をさらに進め、
外資企業の導入やベンチャー企業の創生によって工業構造の高度化をめざす
第三ステージに入ったと見てよい。

　その受け皿として1991年に批准された「重慶高新技術産業開発区」(約20平方km)が
整備され、現在210社の三資企業が立地・契約している。日系企業では矢崎総業が
６社合弁で、いすゞ向けトラック用メーターを生産しているほか、いすゞ
（トラックアッセンブリー工場建設中）、小糸製作所など10社が進出している。

  また、1993年に西南地区で唯一の国家批准の「重慶経済技術開発区」(約10平方km)
があり、現在248社の三資企業が進出している。モトローラ(携帯電話、半導体)、
シーメンス(コンピュータ部品)、ABBなどが交渉中である。
　日系企業では本田技研(125cc二輪車)、日本電装(自動車電装品、建設中)、
ダイキン(自動車用クラッチ、建設中)など20社が進出している。

  重慶直轄市は1997年７月の国務院決定により、浦東新区の有する優遇政策を
全て受けられる（９）こととなった。さらに、８月の日中航空交渉で日本から
中国に乗り入れる路線として重慶便が加わる（１０）など、
重慶市の工業開発は新たなステージを迎えている。

注）
 (6) 『城市統計年鑑』中国統計出版社、1986年版、1996年版
 (7) 『CHINA TIMES　都市、地域特集・重慶』第８号、1995年12月
 (8) 謝徳禄『大破産 中国の国有企業改革』東方書店、1997年
 (9) 『北京週報』第34号、1997年8月26日、28ページ /  人民日報 海外版　1997年７月25日　　
(10) 人民日報 海外版　1997年8月16日　/　日本経済新聞 朝刊　1997年８月16日

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（続く）

1997.11.13.

■中国・西南地区の工業開発の動向（その２）～重慶直轄市設置の意味～■

２．重慶直轄市の設置と内陸都市工業

  重慶市は1997年３月14日、北京、上海、天津に次いで中国の四番目の中央直轄市となった。
新生、重慶直轄市は重慶市、万県市、　陵市、黔江地区からなり、
面積約82,000K㎡（九州の約２倍）、総人口3,002万人（首都圏１都３県人口約3,200万人）の
中国及び、世界でも最大の都市となる。
　全部工業総産値1,070億元、郷以上工業単位数約14,600個を数え、
中国西南地区で最大の工業都市ともなる。

  重慶直轄市の設置には、中央の次のような期待が込められていると考えられる。（４）

1)重慶市は省と同格の権限と責任を付与され、西南地区の経済発展の拠点としての役割を担う。
　重慶市を特大経済中心都市にすることは、上海・浦東新区から長江下流域をへて
　重慶市までの長江沿い地区の経済発展を促そうという「長江発展戦略」によるものである。
　つまり、長江下流域地域の経済発展の勢いと外資の展開（５）を上流域の重慶市まで呼び込み、
　さらに西南地区全体に浸透させたいという期待がある。
　内陸地域の中で重慶市には沿海地域の勢いを着地させるだけのポテンシャルの
　高まりがあるという判断なのであろう。“一部の条件のあるところを先に発展させる”
　とする「先富論」が展開されている。

2)重慶市が四川省と同格となることにより、四川省の担う役割を明らかにする。
　重慶市に省と同格の行政権限を付与するということは、これまでの四川省の
　行政管理から離れた独自の発展を歩ませるということである。
　これにより管轄する人口が多すぎ、行政区域が大きすぎるため経済・社会の
　発展には一定の困難があるのだと言いわれていた四川省の“くびき”をはずした
　という状況を示すことに役立つ。
　つまり“大省”の重圧の一部を軽減した四川省の経済・社会の開発を促進させよう
　ということなのであろう。

3)国家最重要プロジェクトの三峡ダム建設を支える。
　重慶直轄市の設置は中央にとって現実的な課題への切り札でもある。
　国家最重要プロジェクトの三峡ダム建設を進めるためには、120万人に達する
　住民移転を円滑に進めなくてはならない。四川省内の住民移転は100万人に達するといわれ、
　彼らをすべて農村に吸収することは困難である。
　重慶市を直轄市として財政権、立法権の権限を拡大し都市経済を速やかに立ち上げ、
　移転住民を吸収させようということなのであろう。

　中央政府は沿海地域の経済開発で一応の成功を納めた「対外開放政策」
「社会主義市場経済」「先富論」などの成果と経験を踏まえ、本格的に内陸地域の
経済開発の実験に踏み込み始めたと見ることができる。
　内陸への沿海地域の経済エネルギーの誘導、国家最重要プロジェクトの
三峡ダムの建設、他の内陸地域への地域開発の意志表示などの意味を含めた
重慶直轄市の設置は、西南地区の経済・社会開発に新たな一歩を踏み出した象徴
であると受け止められている。
　そして、地元の地方政府の経済開発、特に工業開発への取り組みも新たな局面と
可能性を得て熱を帯びたものとなっている。
  以下で西南地区の中で最初の発展の契機をつかみつつある四川省重慶市、
成都市及び、綿陽市、徳陽市の工業開発の様子を見ていくことにしよう。

注）
 (4) 『北京週報 重慶特集』第17号、1997年４月29日、7～14ページ
 (5) 関満博『中国長江下流域の発展戦略』新評論、1995年

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（続く）

1997.11.7.

■中国・西南地区の工業開発の動向（その１）～中国内陸地域の情況～■

　今年３月に行った中国・四川省における工業開発実態調査の概要を６回シリーズで報告する。

１．はじめに

  1978年から始まった中国の改革開放路線は、'89年の天安門事件というショックを
抱えながらも経済セクター、ことに工業開発の面では急速な進展を成し遂げている。
この約20年の間に日本、欧米及び、アジアNIESを始めとする東アジア諸国・地域の
工業資本の投資は、中国沿海地域（遼寧省、河北省、山東省、江蘇省、浙江省、
福建省、広東省、広西チワン族自治区、海南省及び、天津市、上海市）に集中した。

　また、農村部には700万(1)もの郷鎮工業が創生し重要な経済セクターの位置を
占めるようになった。そして'92年の「南巡講話」以降、中国経済は「社会主義市場経済」
という概念を追認し「中央指令性経済」を退けることにより、実質的に市場メカニズム
にそって経済が展開する傾向を強めている。こうした中で沿海地域の経済特区、
沿海開放都市、沿海開放地区の経済成長は“華やかな”部分として中国国内及び、
海外の注目を集めてきた。

  ところで近年、中国の華やかな部分への注目とともに、内陸地域への関心が高まっている。
沿海地域と内陸地域の様々な格差、都市部と農村部に係わる諸問題、10億人近くの
人口を抱える内陸地域の市場、内陸地域と国境を接する国々との関係などである。

  中国において内陸地域や農村部の経済振興は国政の重要課題である。数々の産業振興理論、
地域開発戦略が議論され取り組まれている。その一つに「四沿開発戦略」(2)がある。

四沿とは

「沿海（沿海地域の地域経済開発）」
「沿辺（国境地域の13の辺境都市を拠点とする地域経済開発）」
「沿江（長江流域を軸とする地域経済開発）」
「沿線（内陸地域の鉄道幹線を軸とした地域経済開発）」

である。
　そして現在、西南地区の四川省の開発は「沿江開発」の重要なポイントとして
急速に浮上してきている。

  一方、これまで沿海地域に活発に展開してきた日本工業においては、
いよいよ内陸地域を含む中国本体との関わり方や理解の深化が求められているように見える。

　そこで報告では、広範囲な西南地区の中で「沿江」開発における長江上流域の拠点、
重慶市及び、内陸の大省四川省の省都、成都市、そして三線工業の「軍転民」にかける
地方都市、綿陽市、徳陽市の工業開発の情況に焦点を当て、その特徴を見ていくことにする。(3)


   表－１　西南地区の主要都市比較

		面積 (K㎡)	総人口 (万人)	全部工業総産値 (億元)	郷以上工業単位数 (個)
四川省	重慶直轄市	82,481	3,002	1,070	14,618
	成都市	12,390	972	1,020	6,897
	綿陽市	20,249	507	253	2,401
	徳陽市	5,954	368	204	2,089
貴州省	貴陽市	－	168	169	－
雲南省	昆明市	15,942	375	392	1,975
チベット自治区	ラサ市	－	38	0.8	51

　注１ : 1995年当年価格、新規定
　注２ : 重慶直轄市の数値は、重慶市、万県市、　陵市、黔江地区の合算　
　資料 : 『四川統計年鑑』『貴州統計年鑑』『雲南統計年鑑』『西蔵統計年鑑』各1996年　


(注)
(1)『中国郷鎮企業年鑑』中国農業出版社、1996年
(2)『中国経済形勢与展望 1993～1994』中国発展出版社、1994年、363ページ
(3) 1997年３月９日から23日にかけて行った重慶市、成都市、綿陽市、徳陽市の
　　工業実態現地調査による。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（続く）

1997.8.6.

■相模原地域動き始める■

1997年８月１日、相模原市産業会館にて二百数十名が集まり
“さがみはら経済人プレフォーラム”が開催された。

相模原市では昨年度、産業活性化ビジョンを策定し、
今年度から具体的な産業活性化事業に取り組み始めている。
その一つが、まず相模原地域の産業～工業、農業、商業～において工業者、
農業者、商業者と産業振興機関、地域自治体、商工会議所が取り組む事業、
政策を地域独自に作り上げていこうとする「経済人フォーラム」である。
今回のプレフォーラムはその立ち上げ大会であった。

工業人フォーラムに関わって感じるところは、全国の工業集積地域では
次々と地域工業を巡る様々な取り組みが続いている　ということだ。

相模原市は、内陸（工業）地域として全国最大の製造品出荷額（約１兆9,300億円）を
有する地域である。
同時に首都圏外延地域として人口増加も続け現在56万人を超えていることから、
基本建設投資に忙しく、経済拡大期には地域独自の工業政策というものは
深く取り組まれることはなかった。

しかし“構造変革”の意味を理解した相模原地域では、工業振興の重要性に着目し
蠢き始めたというところである。
全国の主要な工業地域としてはやや出遅れた動きではあるが、後発の意欲が
強く感じられる。

たとえば、今回のプレフォーラム実施に先立ち、これまで実際にこうした活動を
蓄積してきている地域工業者群に厳しい指摘を受けつつ地域工業振興行政としての
方向を模索・検討を重ね、熱と気持ちを高めてきている。

秋からのフォーラムの本格立ち上げに向けて、まず地域内の約1,200工場を
全部巡回し地域の製造現場から実態の理解を深め、工業者とのパートナーシップを
築き上げようとしている。

当面は工業振興行政側の努力と経験の蓄積が待たれるが、そう遠いことでなく
模地域の工業振興活動が盛り上がってくることは間違えないだろう。

1997.7.10.

■神戸の開発ベンチャーはネットワーク型ファブレス企業だ■

先にお送りした神戸市の開発ベンチャー ㈱リデックの栗原氏、宇都氏と話ができた。

当社は、平成３年に創業し“音”に関する制御分野のソフトウエア開発や
装置開発を得意としている。
現在、大手音響、弱電、自動車等メーカーの開発セクションとの仕事を
主な事業内容としている。
30～40歳前半の仲間５人は、それぞれが専門分野の開発設計を分担し
クライアントの要求に即応している。

５人の事務所は“マンション立地型企業”あるいは“SOHO”として神戸市、
東京都国分寺市、大阪市、栃木県足利市に分散立地している。
開発設計段階では電子メールをフル活用し、ハードの（試作）製品の加工・とりまとめは
神戸市内の機械加工業の集積に依存するファブレス企業の一形態を成している。

神戸震災の危機を乗り越え、必死の取り組みの中から現在の事業形態を創りだしている。

彼らの挑戦を応援したい。

㈱リデック　ホームページ　http://www.iijnet.or.jp/redec/

1997.7.7.

■“情報都市みたか”に向けた取り組み■

三鷹市が“SOHO CITY みたか”をコンセプトとする地域情報化、
都市型産業振興、まちづくりに向けて一歩を踏み出している。

（財）三鷹市まちづくり公社　が事務局となり情報通信に関係する研究会を
継続してきており、筆者もそのメンバーとして参画してきたことから報告する。

当面、産業振興分野で事業化が図られつつあるのが地域でSOHOを提供しようという
ことである。駅周辺の貸事務所オーナーも事業参画にの意向を示し、
行政側も大都市内産業インキュベート（ふ卵器）の機能を備えた事業に
仕立て上げたいという構えである。

三鷹市は広く「工場等制限法」の指定がかかっており工場の新・増築、建替が
制限されていることから、いわゆる狭義の「ものづくり」を展開する工場の
維持が困難な環境にある。
しかし地域にとっての広義の「ものづくり」は不可欠であるという認識にあり
「ものづくり」とも密接に関連する大都市内産業の創出に活路を見いだそうとしている。
そうした取り組みに向けた研究会提言（中間報告）がホームページに掲載されて
いるのでごらん頂きたい。

まちづくり公社ホームページ　http://www.parkcity.ne.jp/~matikou/

1997.7.3.

■「消音チップ」開発ベンチャーの取り組み■

神戸市発祥の開発ベンチャー㈱リデック は、この度「（仮称）消音チップ」の
製品化に成功し現在、用途開発に取り組んでいる。
当面、音楽音響分野での応用となりそうだが、さらに多方面の応用が可能となろう。

音をきれいに、正確に伝える（発信する、再生する）音源技術がある一方、
「消音チップ」は発生した音以外の音を消す事により、伝えたい音をより
きれいに、正確にしようというところから生まれた。
代表者のＫ氏は音楽スタジオなどでのミキシングのプロでもあり、
これまでずっと音とつきあってきた。

例えば、立体感のある音を表現するには２つのスピーカをある程度離して設置し、
耳に音を送る事が基本であったが、製品の応用によって２つのスピーカをより
接近して設置（コンパクト化）もしくは、１つのスピーカで立体感のある音を
耳に到達させることが可能になるだろう。

音に関係する電子技術開発の一例である。今後、そうしたチップを組み込んだ
さまざまな応用製品の開発が始まろう。
このような応用用途の創出、応用製品の試作・製品化に岡谷・諏訪地域の
「ものづくり」が初期段階から係わっていくことは重要だろう。

1997.7.1.

■墨田区の工業振興と共同受注・開発グループ■

先日、墨田区中小企業センター及び、ラッシュすみだの方々とお会いした。

（墨田区の工業振興姿勢）
中小機械金属系工業の拠点、すみだ中小企業センターは設立１１年目を迎え
東京城東地域内にしっかりとなじんだものとなっていた。
現場を歩く非常勤技術相談員（技術士）１３名、受発注相談員６名を擁し
日々直接、地域の経営者、後継者、技術・技能者の方々と行動していた。
そういうことが、行政も民間業界も極めて“当然”の“あたりまえのこと”
としてなじんでいた。
昭和54年に地域自治体として独自の「中小企業振興条例」を制定し、
各種の産業振興事業に取り組んできた墨田区の蓄積であるなあと思った。

墨田区始め、全国の主な工業集積地域の“産業支援施設”について興味にある方は
関満博/山田伸顯『地域振興と産業支援施設』(新評論、1997年)　をお読み下さい。

（ラッシュすみだ）
ご存じの方もおられると思いますが、共同受注グループ“ラッシュすみだ”は
今日も勢いがあった。
会長の津幡さん（㈱ツバタ　代表取締役　内視鏡先端ユニット等精密加工・組立メーカー）は
二代目経営者として一つのスタイルを確立し元気いっぱいやっておられた。
墨田区近くまで行かれる機会があったら、連絡して話を交わす意味は大きい。

㈱ツバタ　131  墨田区立花 5-9-5（工場アパート「テクネットすみだ」３F）
                TEL:03-3616-2010　  FAX:03-3613-3359

1997.6.30.

■はじめに■

明日よりこのページで地域の産業振興、企業経営に関する
さまざまな話題を掲載していきます。

執筆者はPASS研究所という経営コンサルタント会社を
営んでおられる西沢正樹氏です。

西沢氏は地域社会における産業振興をメインテーマに、
独自の『フィールドワーク主義』で足を使って地域の現場（フィールド）の
実状に注目し、多くの地域において成果を上げられています。

そうした調査研究の中から、国内各地域の産業の現状や
アジアの周辺諸国の動向などをレポートしていただきます。

また、このコラムに対するご意見ご感想をお寄せください。

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