若手設計者のつぶやき・バックナンバー

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1998.5.18.

■新人教育 〜その1■

私の職場にも98年度の新入社員が入ってきました。
大学院卒の男性2名です。

機械設計に関するさまざまな教育の一環として、CAD管理者である私が
3D−CADに関する2時間程度の講義をすることになりました。
前準備の段階で、「はて、何を話そうか・・・」と悩みましたが、
3D−CADの特徴・メリット・デメリットなどを一通りまとめた
簡単な資料を作成しました。

さて、講義当日、神妙な顔つきの2人を前にまずは商品説明から始めました。
「この○○○○という3D−CADは○○○○社の製品で、この職場では
 約3年前から使っており・・・」
と切り出し、いよいよ「3D−CADって何?」という話題に入ります。

いわゆるソリッドモデラの説明をする場合には、
2次元CADとの比較をするのがごく一般的です。
3D−CADの営業マンが「従来の2次元CADと比較しますと・・・」と説明するのと同様です。
同じような売り文句を言いかけて、はたと気がつきました。
「この新人たちは、そもそも2次元CADについて知っているのだろうか?」
そこで、「2次元CADは使ったことがありますか?」と質問すると、
2人のうちの1人が、大学の授業でちょっと触ったことがあると答えました。
しかしながら、数時間のカリキュラムをこなした程度のようです。

さて、どうしましょう?
2次元CADに比べて3次元CADが画期的なツールであることは、
今まで何回か説明する機会があったのですが、2次元CADはおろか
機械設計の経験のない人間に説明したことはありません。
となると、まずは「2次元CADによる設計とはいかなるものか」という部分から
説明をしなくてはならないわけですが・・・
                            (続く)


1998.4.21.

■スケジュールへの影響■

3D−CADのデメリットの一つに、大きなアセンブリ(組立図)では
呼び出し時間が非常にかかるということがあります。
中規模なアセンブリでも20分、さらに大きなアセンブリでは1時間以上も
呼び出しにかかることがあるのです。

これは、ともするとその日のスケジューリングに大きな影響を与えることになります。

例えば、1〜2時間後に関連会社などに外出しなければならない場合、
それまでに一仕事済ましていきたいのがやまやまなのですが、
呼び出しに30分も1時間もかかるような3Dモデルを呼び出す気になるでしょうか?

逆に、朝一番から会議が入っている場合などはラッキーです。
会議の前に3D−CADを起動しておき、3Dモデルの呼び出しをかけておけば、
会議が終わった頃にはいきなり設計作業に移れるわけです。

このように、3D−CADで大規模なアセンブリを扱うようになると、
3D−CADを中心にスケジュールを立てるというような事態が起こります。

朝出社した時点でその日の会議や外出の予定を確認し、どのタイミングで
3D−CADを起動するのが有効か、あるいは、その日は3D−CADを
起動しないほうが仕事が進むのではないか・・・。

そして残業時間帯には、せっかく長い時間をかけて呼び出した3Dモデルを
閉じるのが惜しくて、3D−CADを終了することができずに、
ついズルズルと深夜まで残業してしまったりするのです。

これもまた、ソフトウェアに振り回されている一面なのでしょうか。


1998.4.1.

■実サイズとのギャップ■

私がここ3ヶ月ほど構想・設計を手がけてきた装置の組立てが始まりました。
頃合いを見て工場に出向き、進展具合を確認します。

工場に行ってみると、すでにユニット単位での組立てがほぼ終わっており、
本体の脚(ベース)への取付けをこれからしようかという段階でした。

手描きや2D−CADで書いていた頃は、現物が実際にどんな姿なのかは
自分の頭の中のイメージとして存在していたので、実物を見たときの
感動(落胆の場合もある)は非常に大きなものでした。
しかし3D−CADによる設計では、コンピュータ画面の中の姿と
まったく同じ形状のものがそこにある、という感じで、さほど大きな感動はありません。
(もちろんこれが3D−CADの一つのメリットであるわけですね。)

ところが、自分のイメージしていた形状とまったく同じでありながら、
どこか違和感を感じるユニットがいくつかありました。
その違和感とは「大きさ」です。
つまり、思っていたよりも「大きい」あるいは「小さい」という感じがしたのです。

手描きの時代には、実寸の長さを定規で計って描いていたわけですから、
必然的に各部品やユニットの大きさをイメージしながら設計していました。
(図面枠に入らない場合にはもちろん縮小しますが、イメージを掴みやすく、
 ミスを防ぐために、出来るだけ実寸で描けと先輩に教えられていました。)
2D−CADの時代でも、まずユニット全体の大きさをイメージして組立図を3面図に描き、
そこから部品図にバラしていくので、やはり大きさを意識しながら設計をしていました。

ところが、3D−CADでは部品から順番に組み上げていくせいなのか、
はたまたごく簡単に立体図を表示することができるせいなのか、
時として、大きさのイメージが狂うことがあるのです。

3D図形をモニタ上のバーチャルな世界で自由自在に扱えるようになった代償に、
実物の重量感や存在感が希薄になっていってしまうのでしょうか・・・


1998.3.2.

■忙しいのにヒマ?■

3D−CADはデータ量が非常に大きく、大きなアセンブリ(組立図)ともなると、
その呼び出しに2時間以上かかることも珍しくありません。

このようなアセンブリでは、一つのコマンドを実行するのにも
10分〜20分もかかることがざらにあります。
保存するだけで20分、プリントアウトに1時間という例もあります。

コマンド実行中には、万が一CADがハングアップすることを恐れて、
パソコンには触らないようにしているので、設計者は手が空いてしまいます。
設計テーマが進むにしたがってデータ量は多くなっていくわけですから、
それに伴って、ヒマになる時間も多くなっていきます。

この状態をはたから見ていると、一見ヒマをもてあましているように見えます。
「ちょっとパソコンに触っては、15分休憩」という感じに見えるのです。
他にやることがあったとしても、いつコマンドが終了したかが気になっていますから、
なかなか他の仕事に集中できないのが現実です。

「出図納期が迫っているのに、ヒマな時間が増えていく」

これを矛盾と言わずしてなんというのでしょうか?


こうした矛盾をいかに上司に理解してもらうか・・・
自分自信の評価を下げないためにも、3D−CADの啓蒙はとても大事なことなのです。


1998.2.25.

■張りぼての罠 その2■

「張りぼて」モデルを使った構想説明は非常に好評でした。
そして装置レイアウトも決定し、いよいよ実設計に入りました。

実設計というのは、具体的には一つ一つの部品をモデリングしていくことを意味しています。
以前にもここでお話ししましたが、3D−CADでの設計は、まず「部品ありき」です。
2D−CADのように先に組立図を描いてから、それをもとに部品図に
バラしていくのとは違うのです。

実設計に入って数日したころ、上司がやってきました。

「設計が完成するのはまだかい?」

私は思わず耳を疑いました。
実設計に入ってから、まだそんなに日が経っているわけではないからです。

「え? まだ設計をはじめたばかりですよ?」

と聞き返すと、上司はまじめな顔をして、

「どうして? この前見せてくれた組立図、ほとんど出来上がってたじゃない。」

この言葉で、ようやく上司の言っている意味がわかりました。

構想説明で使用した「張りぼて」モデルの出来がよすぎたせいか、
彼は、その細部の部品の設計まで済んでいるものと思い込んでいたのです。

確かに例の「張りぼて」モデルは、装置イメージを掴みやすいように「それっぽく」描いてありました。
ロボットはロボットっぽく、インデックステーブルはインデックステーブルっぽく・・・

それを見た上司が、「ほとんど設計が終わっている」と思い込んでも無理はありません。


しかし!!!!! 
それは所詮中身のない「張りぼて」なのです。
本当の実設計は、ゼロからのスタートなんです。

それを上司に説明したのですが、なかなか理解してくれず・・・

3D−CADの「装置イメージが掴みやすい(別名:はったりが効く)」というメリットが
大きな誤解を生んだ例でした。


1998.2.18.

■張りぼての罠 その1■

すっかり御無沙汰してしまいました。

実は、昨年の12月より非常にボリュームの大きい設計テーマを抱えており、
毎日深夜までの残業と休日出勤の嵐だったため、コラムを執筆する元気が残っていなかったのです。

ようやく峠を越え、再び執筆する気力が出てきました。


さて、今回の設計テーマの初期段階で、3D−CADの一つの強みが発揮されました。
実設計に入る前の段階として、ユニットごとの外形を模した箱型のモデリングを行ない、
それを簡単にアセンブル(組立て)することで、「張りぼて」の装置モデルを作成したのですが、
これが非常に好評だったのです。
「張りぼて」というぐらいですから、本来数十の部品で構成されるべきユニットを、
たった1部品で表現しただけのもので、具体的な中身(部品)は全くないわけです。

ユニットのレイアウトを決定するためにA案、B案、C案、、、といった形で
さまざまなレイアウト案をその「張りぼて」モデルで表現しました。
ユニットレイアウトの組み替えは、3D−CADのアセンブリ条件を変更するだけの
ことだったので、上司の目の前で次々とレイアウトを変えてみせては、
画面上でクルクルと回してみせたのです。

「おお、これはわかりやすい」

上司は非常に喜びました。
そうして基本レイアウトが決定し、いよいよ実設計に入ったわけですが、
ここで思わぬ罠が待っていたのです。

                            (続く)


1997.12.26.

■3D-CADを使いこなす その6〜 人違い■

3D-CADのアセンブリ(組立て)モデルをメモリ上に呼び出した時には、
そこで使われている全ての部品データがメモリ上に呼び出されています。

大規模なアセンブリの場合には、複数のディレクトリにパスを通すことによって
必要とする部品ファイルを呼び出すわけですが、時として思わぬエラーが
発生することがあります。

部品モデルを製作する時には、最初に部品名称(=ファイル名)を決めるわけなのですが、
その時点で図面番号が確定していない場合には、とりあえず「わかりやすい」仮の名称を
つけることがよくあります。
この「わかりやすい」というのが曲者で、ともすると異なるユニットの全く別の部品に
同じ名称をつけてしまうことがあります。
例えば「base_plate」とか「angle」というように、よく使う名称のファイルが
ディレクトリ間で重複してしまうことがあるのです。

こうした場合には、呼び出されたアセンブリに予期しない部品が
くっついていて驚くことになります。
で、よく調べてみると、それは他のユニットにある同名の部品なのです。

つまり、アセンブリから部品名称で検索していった結果、
同姓同名の別人を呼び出してしまったわけです。


「なんだ、部品の名前がダブってたのか」と気がついても、それを直すのはそう簡単でありません。
エクスプローラなどで安易にファイル名を変えるわけにはいかないのです。
部品名(個人名)だけでなく、その部品が含まれる全てのアセンブリ(台帳)に対して
名称の変更を通知しなくてはならないのですから・・・

CAD上で名称の変更をしようとしても、現在メモリ上にあるのは同名の別部品(別人)なのですから、
まずその部品の情報をメモリ上から追い出さなくてはなりません。
しかし、一つの部品だけをメモリから消そうとすると、例の「親子関係」の制約によって、
いもづる式にエラーが発生し・・・あぁ!!

                           

1997.12.10.

■3D-CADを使いこなす その5〜 まめに保存しろ■

あまり3D-CADの悪口を言っても仕方ないのですが、バグの話をもう少し・・・

バグの中でもっともたちの悪いバグは、「3D-CADそのものが落ちるバグ」です。

このバグは、3D-CADが持っている場合が多いのですが、3次元グラフィックボードの
ドライバーソフトとの相性による場合も少なくありません。
中には、3D-CADどころか、OS(WinNT)そのものが落ちる場合もあります。
この場合には、青字に白文字のダンプ(16進)リストのような画面に
なってしまい、こうなるともう電源を切るしか手がありません。

いったん落ちてしまうと、当然のことながら保存していないデータは失われてしまいます。
実際には、3D-CAD起動時から終了までの工程を記録したデータファイルが
自動的に残されるため、それを使って復活させることも可能なのですが、
知識の必要な編集作業が伴うために、あまり簡単な作業ではないのが現実です。

また、仮にそのデータファイルを使って復活させても、ある特定の操作で
同じように落ちてしまう場合には、その操作が使えないのと同義ですから、
それに変わる方法を考えなくてはなりません。

結局のところ、そうした事態を予防するためには、「まめに保存する」のが
よいわけですが、大きなアセンブリ(組立て)モデルになると、
保存にも数分かかる場合があり、思考の流れを止める要因にもなります。

そんな悩みを抱えながら、3D-CAD管理者は日々奮闘しているのです。
今さら3D-CADを捨てて2D-CADに戻るわけにもいきませんからね。

                           (続く)


1997.12.2.

■3D-CADを使いこなす その4〜 バグ?それともミス?■

3D-CADで設計をしていく過程では、常に論理的・幾何学的な考え方をしなくてはなりません。
もしも手順に矛盾がある場合にはたちまちエラーモードに入ってしまいます。

これらは、理論上ありえない寸法変更をしようとしたり、
フィーチャー(形状要素)の親子関係の制約を受けてしまったりと、
ほとんどの場合には自分がなんらかのミスをした結果なのですが、
たまに、「どう考えても手順は正しいはずなのに???」という状況が発生します。
こうした時にまず疑うのが「バグ」です。

ソフトウェアにとって、バグは避けて通れない問題ではありますが、
特に3D-CADを使う上ではとっても大きな障害なのです。

それはなぜか?

最初に書いたように、ワープロソフトなどと違って3D-CADを使うには
常に「論理的・幾何学的」な考え方が必要です。
これは裏を返すと、
「これで本当にいいのかな?もしかして間違った考え方では?」
という強迫観念に常にさらされているということでもあります。

つまり、あるエラーが発生した時に、それが自分のミスなのか、
それともソフトウェアのバグなのかという境目の領域が非常に広いのです。

しかしながら、3D-CADに限らずソフトウェアメーカーというのは、
「バグ」というものを大っぴらには認めたがらないようです。
確かに、バグはソフトの完成度の低さを表わすと認識されていますからね。

でもでもでも、、、
バグと気づかずに1〜2時間も頭を抱えてしまう設計者も現実にいるんですよ。
「ああ、それはバグですから気にしないほうがいいですよ」
とあっさり言われた時の落胆といったら・・・

                           (続く)


1997.11.21.

■3D-CADを使いこなす その3〜 誰もが通る道■

以前にも書いたと思いますが、3D-CADにてこずる最大の理由は、
すべての作業を論理的・幾何学的に組み立てなくてはならない点です。
(製造の過程まで考えると、実現しない部品の図面を書く心配がないという
 メリットはもちろんあるのですが・・・)

2D-CADと違って、理論的に成立しない図形を画面上で構成することが出来ないため、
単純な立体であっても、それを成立させる条件を常に意識する必要があります。
また、アセンブリ(組立て)をする際には、その部品と他の部品の配置条件や
順番などを意識しないと、思わぬ障害にぶちあたることがあります。

このこと自体は、3次元ソリッドモデルが本来的に持っていることであるので、
それを排除することは不可能と言ってもよいでしょう。
しかし問題は、そうしたトラブルに遭遇した時にどのように対処するか、です。

3D-CADをある程度使いこなしてくると、陥りやすいトラブルというのが見えてきます。
そして、同じ職場の他のメンバーも同様のトラブルに悩んでいることに気づきます。
いわゆる「誰もが通る道」というやつです。

この「誰もが通る道」の部分をいかにクリアーにしていき、
設計者を正しい道(?)に導いていくかが、CAD管理者の腕の見せどころになるわけです。
もちろん、このことはCADだけでなく、全てのことに言えるわけですが・・・


さて、
トラブルシューティングを追究していくと、今度は別の「敵」に悩まされます。

それは、「バグ」です。

                           (続く)


1997.11.11.

■3D-CADを使いこなす その2〜 PCパワー200%!?■

非常にデータ量の多いアセンブリ(組立て図)を扱う場合、
それを呼び出すだけで1〜2時間もかかることがあります。

その間は、一切PCに触れることができません。
マルチタスクなので実際には他のアプリケーションを動かすことも
できるはずですが、万が一、PCがフリーズした場合を考えると、
「怖くて触れない」というのが現実です。

データ呼び出しの間はPCに触われませんから、状況によってはその間、
設計者がまったく暇になってしまう場合があります。
(PCを使わない仕事が他にあれば別ですが)

そこで、手っ取り早くPCの作業効率を2倍に上げる方法があります。

別に難しい話ではありません。
その方法とは、単にPCを2台用意するだけです。

1台のPCでアセンブリを呼び出し、その間にもう1台でも3次元CADを立ち上げ、
パート(部品)モデルや小規模アセンブリを扱ったりするわけです。

しかし、実際のところ、これって効率が上がっているわけではないですよね。
「数百万円の3次元CADと百万円近いハード」を「かける2」しているわけですから、
能力は上がっているように見えても、効率が上がっているわけではないのです。

しかし、そこまでしたいほど、3次元CADのデータの重さに手を焼いているのです。

                           (続く)


1997.11.5.

■3D-CADを使いこなす その1〜 CADの能力 VS PCの性能■

3次元CADが、2次元CADに比べてさまざまな点で優れていることは、
あえてここで言うまでもないでしょう。
しかしながら、実際に運用していく上ではデメリットも多く存在します。
中でも最大の悩みは、「圧倒的なデータ量の大きさ」です。

最近のパソコン(以下PC)の能力向上に伴い、従来ワークステーションで
動いていたCADがPC上でも動くようになりました。
3次元CADも例外ではなく、私の職場でも8割近くがPCでの運用となっています。
そのPCは、考えられる限り最高のスペックのものを使います。
ちなみに私の使っているPCは、PentiumPro/200でメモリが128Mです。
(現在ならばPentiumPro/300で256Mというスペックが有力です。)
しかしながら、それだけのスペックがあっても3次元CADのデータの重さに
太刀打ちできないという現実があるのです。

3次元CADのデータ量がいかに大きいかというと、例えば装置内で使うエアシリンダを
必要最低限な形状でモデリングをして、1つで200キロバイトものファイルになります。
これが、数百から数千部品の装置になると、全体では実に数百メガバイトもの
ファイル容量になってしまいます。
保管するにももちろん大変なのですが、これを実際にCAD上で呼び出した時には、
とんでもない状況が待っています。

まず、呼び出しに1〜2時間。
呼び出してからは、1コマンドごとに処理待ちで20分。
おまけに、データが重すぎると3次元CADそのものが落ちる・・・

どうにもならないこの状況・・・
まさに設計者がCADに振り回されているわけです。

                           (続く)


1997.10.16.

■装置のサイズ■

先日、私を含めた数人で設計した組立装置の公開試運転(お披露目)をした時のことです。

装置を一目見た部長が一言、
「なんだ、このデカイ装置は? 無駄なスペースが山ほどあるじゃねえか!!」
とたんに「お披露目」の場が「反省会」の場に変わってしまいました。

「デカイ」と言われれば確かにその通りだったのですが、実際の設計者の
立場からすると、とりあえず「理由のある大きさ」ではありました。
しかし、私の部署では「納期・コスト・スペースの削減」をうたい文句に
効率化活動を推進しているものですから、おいそれと「仕方がない」とは言えません。

複数の設計者が一つの装置を設計する場合、設計納期を縮めるために
各人の設計エリアを平面的に切り分けていくというのは、よく使う方法です。
この場合、お互いのエリアに干渉しないようにユニットを設計し、
ワークの受け渡しだけ意識すれば、個々に設計を閉じることができます。
ただし、この方法ではそれぞれが余裕を持ってユニットの大きさを決めていくため、
必然的に無駄な空間ができやすいという問題があります。
あるいは設計工数削減のためにユニットの標準化をした結果、本来の目的に対して
オーバースペックやオーバーサイズになることもあります。
また、電気的な制御が複雑な装置の場合、電装ボックスが大きくなるために、
それを収める脚体(架台、ベース)も大きくなってしまい、ベース板より上には
空間があるように見えても、下には電装ボックスがぎっしりということもあります。

今回の装置はその全てが重なってしまったという不運もありました。
よく言えば「スペース」を犠牲にして「納期・コスト削減」に成功したわけですが・・

しかし、「工夫が足りない」と言われれば確かに「おっしゃる通り」でした。


部長曰く、
「扱うワーク(製品)のサイズに比べて装置がこんなに大きいのは感覚的に容認できない。」

それを聞きながら、私は胸の中でつぶやきました。

「でも部長、あなたの大好きなゴルフは、ボールのサイズに比べてあんなに広いコースですよ。」


1997.10.2.

■製図検定の意味 その5■

3次元CADといえども、最終的に2次元図面を製作する場合には
JIS製図の知識が必要です。

ここで、「2次元図面を製作する場合には」と書いたのは、
本来3次元CADでは2次元図面を書かなくてもそのままCAMにデータを
引き渡せるというのが「売り」なのですが、現時点では、従来のように
紙図面にして次工程に引き渡すことが多いからです。
(このことについては、またの機会にお話ししましょう。)

新入社員がJIS製図の知識を身につけるには、ドラフターに向かって
手書きで練習するのが一番確実であると思うのですが、実際のところ
私の職場にはもはやドラフターは存在しません。
また、最近は、商品のライフ短縮に伴ってその生産装置設計の納期は
短くなる一方であり、新人といえどもすぐに実設計をしてもらいたいのが本音です。

前述したように、立体を3面図に展開したり、逆に3面図から立体を
想像する能力、また、断面図を製作する能力などはすべて3次元CADが
肩代わりしてくれます。
CADの操作さえ覚えれば、たとえ新人でもそれなりの図面が描けるのです。

そしてその結果として、製図検定の必要性を感じなくなっていくのです。

しかし、今の時代いつまでも同じ会社に勤めるとも限りません。
転職や独立したときに、高価な3次元CADを使える環境を
手に入れることは、きっと困難でしょう。
想像力を肩代わりしてくれる3次元CADに慣れた設計者が、
果たして2次元CADに戻れるのか・・・

一人の設計者として何を「売り」にしていくのか・・・
それが今後、大きな問題になってくるのかもしれません。

                     (製図検定の意味 終わり)


1997.9.16.

■製図検定の意味 その4■

いわゆる「機械・プラント製図」という製図検定は、
用意されたあるユニットの組立図のうちの1部品を、
その必要な機能を満たすために設計・製図するものです。

このように組立図から寸法を追いながら部品図の形状を推理し、
図面に仕上げる作業のことを、「組立図を部品図にばらす」とか
「部品図ばらし」などと呼んでいます。(他の呼び方もあるかもしれません。)
この工程は、まず組立図を3面図に描き、その後で各部品の具体的形状を
決めていくというもので、手書き製図や2次元CAD時代の常識でした。

ところが3次元CADの場合には、組立図が完成した時点で、
各部品の形状がすべて確定しているのです。
というのは、まず部品を具体的な形状にモデリングした上で、
それらをCAD上で組立てていくわけですから、3次元CADにおける
組立図は、あくまで「まず部品ありき」なのです。
(もちろん、装置全体のイメージがないと設計できないですから、
 CAD入力前の「組立イメージ図」は必要なのですが、
 これはもっぱらフリーハンドでマンガ的に描くことが多いのです。)

組立図が完成していれば、部品形状も3次元的に確定しているのですから、
製図検定で必要になる、組立図から部品の「各寸法を測定する」ことや、
その寸法と3面図を元に、「部品形状を推理する」といった作業は
まったく必要ないのです。

となると、残った作業はJISに基づいた2次元図面形式を満たすために
必要な寸法や加工指示を描き込むことや、材質・熱処理などの特記事項を
描き込むぐらいしかありません。
もはやこれは「知識」であって、「技能」とはいえない作業なのです。

                           (続く)


1997.8.28.

■製図検定の意味 その3■

「製図の能力」と「設計の能力」がイコールでないということが、
3次元CADの登場でより鮮明になってきました。

3面図にする作業はCADが勝手にやってくれますが、
「機能的な設計」、「効率的な設計」のような人間のセンスに近い部分は、
やはり人間が判断して構成していくものです。

従来の2次元CADでは、装置の中のある空間に新たな部品を置く場合に
3面図を見比べて頭の中で想像しながら、混乱の少ない場所に置くのが普通でした。
このことは、「3面図上でわかりやすい」という意味において、
装置に無駄な空間をつくりやすい原因でもあります。

一方で3次元CADは、コンピュータの画面上で好きな角度に装置を回して、
どんな方向からも見ることができるので、同じ部品を配置するのにも、
より多くの選択肢が生まれます。
仮に誤った場所に部品を配置してしまっても、「干渉チェック」という
機能を使うことで、容易に部品間の干渉状態を調査できます。

そうなると、多くの選択肢の中から最適な解を選ぶのは
やはり設計者のセンスになってくるわけです。

また、選択肢が増えるということは、裏を返すとトラブルの原因が
増えることであるとも考えられます。

                           (続く)


1997.8.19.

■製図検定の意味 その2■

3次元CADの登場により、製図技能がそれほど意味を持たなくなりました。
その結果、私の職場では、事実上「製図検定への挑戦」が意味を
持たなくなってしまいました。

製図検定の実技は、ドラフター(製図機)で課題の図面を書くものですが、
2次元CADが導入されて手書きで図面を書かなくなった時代でも、
職場としては検定挑戦を奨励していました。

しかし、3次元CADになってからは、前回説明したように
「3面図を想像する」能力が不要になってしまったので、
製図検定に挑戦する人間がいなくなってしまったのです。
(挑戦しても合格しないのかもしれないが・・・)

ここまで書いてくると、「3次元CADさえあれば素人でも設計できるのか?」
といった意見もあるかもしれませんが、それは違います。
ここでの議論は「設計」と「製図」を切り分けています。

「製図の能力」と「設計の能力」がイコールでないのは明らかですから。

そしてこのことが、設計者にとっての新たな壁になっていくのですが・・・

                           (続く)


1997.8.11.

■製図検定の意味 その1■

3次元CADが標準CADとして定着したことで、
職場に一つの変化がありました。

それは、”製図検定の風化”です。

従来はいわゆるJIS製図にもとづいた手書きの製図作業が主であり、
「製図検定」というものは、設計者として大きな意味を持っていました。
2次元CADも手書きの部分をコンピュータにやらせていたに過ぎず、
3面図を自分で想像しながら絵にしていくという作業は、手書き製図と
何ら変わらないものでした。

3次元CADに変わったからといって、2次元の図面がなくなるわけでは
ないので、寸法記入などの製図作業そのものは存在しているのですが、
前述した「3面図を想像する」という作業はなくなったのです。

詳細な解説は避けますが、3次元CADというのは空間上での物体形状を
データとして持っているため、どんな方角からでも自由に見ることが
できます。従って3面図も各方向から見た状態をそのまま投影すれば
よいので、設計者は一切頭を使わずに3面図を手に入れることが
出来るのです。(同様の理由で断面図や部分図も簡単に表示できます。)
また、「テクニカルイラストレーション」と呼ばれる、立体図を描く技能も
まったく不要になってしまったのです。

この結果、製図作業で頭を使うのは寸法の配置や注記の設定など、
「見やすい図面を書く」ための事務的な作業しかなくなったのです。
つまり、本来「製図技能」と呼ばれたインスピレーションの部分が
一切意味を持たなくなったのだとも言えます。

                           (続く)


1997.8.6.

■3次元CADの特徴 その8■

「P&Pが干渉するんだけど・・・」
「え? 3次元CADでチェックしたからそんなはずはないんだけど」

半信半疑で工場に行ってみると、そのP&Pは見事に干渉していました。
干渉チェックで引っかからなかったのに、なぜ干渉が発生したのでしょうか?

一目見て原因がわかりました。
前述したように、アームの水平・垂直それぞれの「始点・終点」で干渉チェックを
したのですが、実際に干渉が起こっていたのは、その経路の途中でした。
具体的には、アームの上限・下限では干渉はなかったのですが、アームが上下する
途中で他の部品と干渉していたのです。

2次元CADの時代であれば、3面図をじっとにらむだけで発見できた
はずですが、3次元CADの干渉チェックを過信しすぎたために、
こうしたミスが起きたのです。

実際のところ、パソコンの能力や時間の制約もあって、移動する物体の
すべての経路上で干渉チェックをすることはあまり現実的ではありません。
そのため、上限・下限といったポイントごとに干渉チェックを
しているのが現状です。
そんないいわけもあるのですが、そうはいっても所詮「ポカミス」であり、
設計者としては「恥ずかしい」ミスですね。

「便利な機能には落とし穴がある」
私自身が身をもって体験した例でした。


1997.8.1.

■3次元CADの特徴 その7■

3次元CADを導入し、「干渉チェック」という機能を手に入れてから、
私たちの設計する機械の「ポカミス」は目に見えて減少しました。
CAD管理者の立場からも、「3次元CADを導入したメリットがあった」と
素直に喜べる事柄です。

しかし、便利な機能には必ず落とし穴があります。

以下は私自身が経験したミスです。

ある装置のP&P(ピック&プレース)部分を設計したときのことです。
このユニットは、水平移動と垂直移動のエアシリンダを組み合わせた、
ごく簡単なワーク移載アームだったのですが、いつものように
私は干渉チェックを試みました。

このアームの水平・垂直それぞれの始点・終点で干渉チェックをしてみると、
「干渉する部品はありません」と答えが返ってきました。
こうなるともう、疑う気持ちはすっかりなくなり、「出来た出来た」と
図面を出図したのですが、数日後、組立て担当者から電話がかかってきました。

「P&Pが干渉するんだけど・・・」
「え? 3次元CADでチェックしたからそんなはずはないんだけど」

それは予想もしなかった電話でした・・・

                           (続く)


1997.7.28.

■3次元CADの特徴 その6■

・干渉チェックでは「干渉しない部品は検出できない」

この、ごく当たり前の事柄に隠れた危険性を説明します。

こういう場合を考えてみましょう。

部品A(天板)は部品B(脚体)の上にねじ止めされる部品です。
このとき、3次元CADの中での組立てには2つの方法が
あることを前々回のコラムでお話ししました。

それは、

1.部品A(天板)を部品B(脚体)に対して位置決めする。
2.部品A(天板)を他の基準面(例えば床面)に対して位置決めする。

1の方法は実際の組立てと同じことですから、
部品Aと部品Bが干渉を起こすことはまずありません。
この場合のデメリットは、部品B(脚体)が部品A(天板)の「親」になる点です。
つまり、部品B(脚体)を削除すると部品A(天板)も削除されることに
なるわけです。

2の方法は、部品A(天板)を空間上の絶対位置に固定する方法です。
この方法のメリットは、部品Aと部品Bの間に親子関係が発生しないことです。
この時、部品A(天板)と部品B(脚体)のそれぞれの取り付け面が
一致するかどうかは、それぞれの寸法によって決まるわけです。
もしも部品B(脚体)の高さが高すぎる場合には、部品A(天板)と
ダブる範囲が出てきますから干渉チェックで発見できるのですが、
逆の場合が問題です。

つまり、部品B(脚体)の高さが部品A(天板)に届かなかった場合です。
この場合に干渉チェックは有効でしょうか? 答えはノーです。
宙に浮いている場合には、干渉しないのですから、干渉チェックでは検出できません。

仮に1ミリの隙間があったならば、実際に組立てると天板の高さは
設計高さよりも1ミリ下がってしまうことになります。
1ミリの隙間というのは、CAD上では注意して見ないとなかなか発見できません。
精密治具や金型の場合には、これが0.01ミリでも致命的な欠陥になりかねません。

「注意すればいい」といえばそれまでですが、とかく便利な機能を手に入れると、
それに頼って信用するあまり、思わぬポカミスをやってしまうこともあるのです。

                           (続く)


1997.7.24.

■3次元CADの特徴 その5■

3次元CADの特徴の一つに、「干渉チェック機能」があります。
これは、あるアセンブリ(組立てモデル)の中の部品同士の
干渉状態を検査する機能です。

この機能を使うと、例えば「部品Aと部品Bが何立方cm干渉します」と
いうことを自動的に検出できます。

従来の2次元CADでは、3面図の対応する部分を見比べて、
部品の重なりを見つけていたので、実際に組立てたときに「干渉」が
発生することがありましたし、運が悪いとそれが致命的なミスに
なることもありました。

3次元CADの干渉チェックは、特に部品点数の多い装置を
設計する人間にとって、非常に重宝する機能であり、
これにより、いわゆる「ポカミス」を防止することが出来るのですが、
いくつか落とし穴があります。

その一つは、

・干渉チェックでは「干渉しない部品は検出できない」

当然ですよね。干渉している部品を探す機能なのですから。


ところが、これが大きな問題を呼ぶ危険性を持っているのです・・・

                           (続く)

1997.7.15.

■3次元CADの特徴 その4■

3次元CADでのパート(部品)モデリングがある程度スムーズに
使えるようになると、次は「アセンブリ」という関門にぶつかります。

アセンブリとは、日本語で言うところの「組立て」です。
パートモデリングで作った部品同士を、組立てのルールを決めて
組み上げていくのです。

この作業は、実際に部品同士を組立てる工程と非常に似ています。
コマンドとしては、「面と面の合致」「面と面の整列」「軸を穴に挿入」
「軸と軸を整列」「面と面をオフセット(指定長さ離して)整列」
のように、部品Aと部品Bでそれぞれ対応する要素と、
拘束条件(組合わせ方法)を指定してやります。
3次元物体なので、基本的には3つの拘束条件が必要です。

この作業は、要するに空間上でその部品の位置を決めてやることに
ほかならないのですが、ここでも悩みが生じます。

実際に部品を組立てていく場合には、当然のことながら
「つくように」しかつきません。
しかし、設計をしていく中では、「ある部品の上面が床から900mmの
位置になくてはならない」といった設計意図が出てきます。

この時、3次元CAD上でその部品を組立てる(拘束する)ときには、
それが取付く部品に対して位置決めするよりも、
床面から位置決めするほうがよいことになります。

このように、ある部品の拘束条件を決める場合にも選択肢があり、
それが、後々に影響を与える事になるのです。
                           (続く)

1997.7.11.

■3次元CADの特徴 その3■

後から「親子関係の変更」をしなくてもいいような設計(モデリング)を
するためには、設計の過程の中で何が変化し、なにが不変なのかを
常に意識する必要があります。

ある部品をモデリングしていく場合、他の部品との関係によって、
その部品の形状が後から変化することがあります。
たとえば、早い段階で加えた「突起」が、後になって
不要になることがあります。

この時に、この「突起」を寸法基準にして他の要素(穴とか突起とか)を
作ってあると、「突起」を削除したとたんにそれらの部品も「よりどころ」を
失って削除されることになってしまうのです。
この時点で親子関係の変更もできるのですが、そうした手間をかけるよりは、
最初から、不確定な形状要素を親に選ばないことが必要になるわけです。

簡単な形状の部品の場合には、それほど問題にならないのですが、
「治具」や「金型」のように複雑な形状を持つ部品の場合には、
3次元CADの熟練者がどんなに気をつけてモデリングしていても、
残念なことに親子関係に悩む場合が出てきてしまうのです。

そして、それをいかにすばやく修復できるかが、3次元CADオペレータにとって
最も重要かつ難しい関門になっているのです。

                           (続く)

1997.7.7.

■3次元CADの特徴 その2■

3次元CADにおける「順序」を「親子関係」と呼んでいます。
(他のメーカーの3次元CADでは違うかもしれない)

例えば、Aという形状や要素をもとにBという形状を作った場合、
「AはBの親」ということになります。

具体的には、ある部材に穴を開ける場合、穴を開ける面と寸法基準にする面は
すべて穴の「親」になります。

この親子関係は一代で終わらないので厄介です。
「親の親の親」とか「子の子の子」といった状況になると、
あるフィーチャー(形状要素)を削除しようとすると、
その子フィーチャーが山のように存在していることがあります。
この時、そのフィーチャーを削除すると子フィーチャーもすべて削除されてしまうため、
それを防ぐために「親子関係の変更」をしなくてはなりません。
つまり、ほかの要素を親に置き換えてやるわけです。

こうした作業は実はかなり手間のかかる作業であり、実際の設計作業以上に
時間を取られることも少なくありません。

そこで、後から「親子関係の変更」をしなくてもいいような
設計(モデリング)をしていく必要があるわけです。


                           (続く)

1997.7.3.

■3次元CADの特徴 その1■

2次元CADの場合、ポイントは操作そのものの習得にあります。
しかし、3次元CADのポイントは、別のところにあるのです。

実は、ひととおりの操作が出来るようになっても3次元CADには
さらに大きなハードルがあるのです。具体的に例を挙げましょう。

3次元CADの設計手順が、実際の製造工程に似ていることは前回述べました。
これは、裏を返すと、実際の製造工程でできないことは3次元CADでも
できないということを示しているのです。

例えば、何もない空間(つまり空中)に穴を開けることができないように、
3次元CADでも材料がないところに穴は開きません。
「なんだ、当然じゃねえか」と思うかもしれませんが、2次元CADでは
これは可能です。2次元CADの「穴」とはただの「円」でしかないので、
その「円」をどこに書くこともできます。もっといえば、部品の外形図を
書かずに穴だけ書くことができるのです。

また、3次元CADでは、穴を残して部品だけを消すことも不可能です。
(2次元CADでは、外形線を消して穴を示す円だけを残すことは可能ですが。)

つまり、3次元CADの場合には、一連の設計作業の中に「順序」が存在する
ということです。そして、その順序に矛盾が生じるような操作を行なうと、
あっという間に「エラー」が発生し、最悪の場合「1からやり直し」という
ことも起こるのです。

                           (続く)

1997.6.30.

■3次元CADの導入 その4■

3次元CAD導入の先発部隊として名乗りを上げたM主任ですが、
Windowsすら満足に使えない彼にとっては、基礎の基礎から学ぶことに
なったようです。

3次元CADの講習は、通常5日間の基礎コースから始まります。
M主任は、まずWindowsを理解する部分からはじめたので、
最初はかなり苦労したようでしたが、3次元CADそのものには、
あまり大きな抵抗もなく入りこんでいきました

それには理由があります。
それは、3次元CADでの部品設計過程にありました。

3次元CADで部品を設計する手順は、以下のような感じです。

1.平面に断面図を書いて押し出し、ベース形状を作る。(板とか丸棒とか)
  例:「100x200の四角を高さ20だけ押し出す」

2.素材に「カット」「穴開け」「面取り」のような形状要素を加える。
  例:「直方体のこの面に直径10の穴を深さ15まであける」

そう、これはまさに実際に部品を製造する工程と同じなのです!!

普通にものをつくる感覚でいけば部品ができてしまうので、
製造過程をよく知るM主任にとっては、非常に「直感的」だったのです。

そして、M主任自らが、「3次元CADは使える」という判断をしました。
2次元CADを使ったことのないM主任が、3次元CADを使えるように
なったことは、職場のメンバーにとって大きな驚きでした。
この結果、若手もベテランも、3次元CADを否定しづらくなったのです。

これが一つの引き金になり、3次元CAD導入が進むことになったのでした。

                   (3次元CADの導入 終わり)

1997.6.27.

■3次元CADの導入 その3■

3次元CAD導入の先発部隊に名乗りを上げたのはM主任でした。
その名前を聞いて、職場の誰もが驚いたのでした。

なぜなら、M主任は機械設計者としては20年近いキャリアを
持っていますが、もっぱらドラフターによる手書きが中心で、
2次元CADには触ったこともなかったのです。

「コンピュータの初心者で2次元CADを使ったことのない人間が
いきなり3次元CADを使えるようになるものだろうか・・・?」
といった疑問がみんなの胸に生まれたわけです。

コンピュータ関連の雑誌の分析によると、

「2次元CADを使いこなした熟練設計者が、
   3次元CADを使えるようになるまでに最低2ヶ月はかかる」

というのが定説だったので、2次元CADを経験せずに3次元CADを
学ぶことは非常に困難であると誰もが予想したのでした。


いずれにしろ、私の同期のK君と、M主任が先発部隊として
3次元CADに立ち向かっていくことになったのでした。

                           (続く)

1997.6.23.

■3次元CADの導入 その2■

従来のCADのリース更新にともなう新規CAD選定は、
いったん某メーカーの2次元CADに決まりかけました。

しかし、ここで我々にとって意外な結末が待っていました。

それは、上層部の「全社的に某3次元CADを導入する」という決定でした。
すなわち、CAD選定の過程を全て無視して、有無を言わせずに
某3次元CADに決定する、という完全なトップダウンの指示でした。

CAD選定担当者の私は、この決定にやりきれないものを感じたのですが、
いずれにしろ、3次元CADの導入が決定したのでした。


決まったといっても、すぐに職場のすべての2次元CADを3次元CADに
置き換えるというわけにはいきません。
そこで、CAD選定のもう一人の担当者だった同期のK君が、
「先発部隊」として、CAD操作教育を受けることになりました。
(私は当時抱えていた設計テーマの関係で、後発組になりました)

さて、先発部隊には、K君の他にもう一人のメンバーが名乗りを上げました。

その名前を聞いて、職場の誰もが驚いたのです。 その理由は・・・

                           (続く)

1997.6.20.

■3次元CADの導入 その1■

今から2年前、当時使っていた2次元CADのリース更新にともない、
新しいCADを導入しようという動きが私の職場で起きました。
そこで、私と同期の仲間の2人が中心となって、CADの選定を始めたのですが、
その時に候補として、2次元CADに混じって3次元CADが上がりました。

メーカーによるデモなどで、3次元CADのすごさはよくわかったのですが、
高価であることが最大のネックでした。
当時はまだワークステーションでの使用がメインで、その頃高性能といわれた
パソコン(Pentium 90Mhz)では、3次元CADは満足に動作しないものでした。

また、丸棒や板もの中心の装置設計の職場に、本来複雑な2次曲面を得意とする
高価な3次元CADが本当に必要なのか?という疑問の声が大きかったのも確かです。

他にもいくつかの問題が挙げられました。

・3次元CADの独特な設計概念を理解するのには十分な教育と時間が必要である。

・従来の2次元CADで作成したデータを利用できない。

・外注メーカー(2次元CAD)とのデータのやりとりができない。

こうした問題は、2次元CADを選定すれば全てクリアできる問題でした。
というわけで、新しいCADは某メーカーの2次元CADに決まりかけたのですが・・・

                           (続く)

1997.6.18.

■ごあいさつ■

本日より「若手設計者のつぶやき」を連載させていただきます。
ペンネーム「WebWheel (ウェブホイール)」です。

私は普段、某精密機器メーカーで、社内向けの生産装置の設計をやっています。
(会社とは無関係に執筆しますので、なにを生産するのかは言えませんが・・・)
入社して丸5年、この4月から6年目になります。

私の入社した年は、ちょうど「バブルのしっぽ」というべき年で、
新卒の採用数もかなり多かったのですが、翌年からは採用が激減しました。
みなさんも感じているように、この5年間はいろいろな分野の技術が劇的に
変化した期間でしたが、「設計」という立場でCADなどのコンピュータ技術に
触れることが多い私たちにとって、その変化は非常に顕著なものでした。

私の職場における「設計環境」の最大の変化は ”3次元CAD”の導入でした。
さすがにまだ高価であるため、一部の企業でしか導入が進んでいないようですが、
最近はパソコンで動く3次元CADが主流になってきているので、
今後さらに普及することが容易に想像できます。

さて、今から2年前に、従来の2次元CADから3次元CADに切り替えた
我が職場では、多くの変化が訪れるとともに、誰もが戸惑いました。

                          (続く)

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